2011年09月02日
ユーロの下落は続く/EPFLの頭脳モデル化プロジェクト
   ジュネーブ ビジネスサポーター 佐多 直彦

 7
月初め、ユーロ圏諸国は、IMFと共同でギリシャに対する120億ユーロの追加支援を発表しましたが(※)、同国民の生活環境はその間、目立って悪化、既に同国の状況は選択的デフォルトの可能性あり、これに拍車をかけるようにムーディーズを始めとする大手格付け会社は、ポルトガル・アイルランド国債の格下げを発表、スペイン・イタリアも今や風前の灯となり、13日、日本円と並ぶ逃避通貨スイスフランに対するユーロレートは史上最低の1ユーロ=1.1552フランを記録、下げ基調は止まりそうにありません。
 先般の大規模介入が全く効果を示さなかったことから、スイス連銀は現状、再介入は意味ないとの立場を崩していませんが、解決方法は見出せていません。
 この現状にあって、スイスの
代表的コラムニストBEAT KAPPELER氏は、先日注目すべき分析を公表しましたので御披露します。
 ―― 先進諸国における破綻のケースはギリシャが最初ではなく、古くは90年初期にカナダがデフォルト寸前状態にあったとき、当時のクレティエン首相は、94年に徹底した挙国体制で危機を乗り切ったし、同時期、スウェーデンも長期社会党政権が築いた国民過保護の弊害が一気に表面化し、大企業はこぞって国外脱出、銀行は相次いで破産、という未曾有の経済危機に面したが、代わって登場した保守政権が社会党との調整を巧みに乗り切って、短期間で国力回復したことが想い起こされる。
 ―― 最近では3年前、事実上、国の破産宣言まで落ち込んだアイスランド、そして英国がいずれも徹底した挙国一致体制で目をみはる成果を生みつつある。英国の場合、問題の規模が大きいだけにそう楽観できないが、それでもキャメロン・クレッグの二党政治の手捌きは注目に値する。これらの国で共通していることは、労組が最低レベルの賃金を了承、企業は見習いレベルの大量採用で労働者のレベルアップに協力するなどの手段で、公共レベルの資産形成に貢献したこと。
 ―― 他方、現下のポルトガル、ギリシャ、スペインは‘共通の弱み’がある。いずれも政治レベルでコンセンサスが取れず、挙国一致体制が実現できないモードにあることで、ギリシャは現在崖っぷち状態なのに、国民は政府に対する不信任でデモの繰り返し、ポルトガル・スペインも目下政権交代の混乱に巻き込まれ、スペインは更に中央と地方政府の亀裂がまた本格化、という救い難い状態。これら“南部諸国”の問題は資金不足でなく、政治レベルの能力、自分のことしか考えない労組が、お互い責任のなすりあいを繰り返すばかりで、何時までたっても一致協力モードに至らない点にある。
 このように、KAPPELER氏は言い難いことを明確に指摘していますが、正にその通りです。此の問題はいまフランス・イタリアにも急速に波及しつつあり、これらの国々が北欧やカナダの例を学んで、国民全体が一体となって体制回復に徹底して取り組まない限り、ユーロの下落は続く一方といわざるを得ません。欧州の状況はこの意味で、一般に報道されているよりもはるかに深刻です。

(※)本稿は717日時点ですが、その後、721日、ユーロ圏諸国は第二次ギリシャ支援に合意、昨年3月の1000億ユーロ支援の効果がなかったことに鑑み、新たに向こう3年で1568億ユーロの支援を決定しました。今般の特徴は、うち496億ユーロが民間機関(銀行・保険会社・年金ファンド)によって保証されている点で、返済期間は15年〜30年の猶予、金利も従来の4.5%から3.54.0%で設定、10年間で300億分の低減となり、もしギリシャが市場で融資を求めたら、現況から2年で35%という高率が適用されることを考慮すれば、この措置が如何に大規模なものかが分かります。問題はかかる支援策に伴う負担は、当然、増税、給与カット、国営産業の民営化など、国民に向けられます。これをギリシャ国民が簡単に受け入れるとは思われませんが、これを受け入れねば、国債のデフォルト、ひいてはユーロ圏離脱、という手段しか残されていません。

EPFLの頭脳モデル化プロジェクト>
 スイスの医学関連技術は世界の注目の的となるテーマを幾多生み出していますが、今回又、人間の脳の分野で際立った研究が話題を呼んでいます。EPFL(ローザンヌ工大)HENRY MARKRAM教授が立ち上げた“HUMAN BRAIN PROJECT(HBP)は、EUレベルの基本プロジェクトの一つで、2025年完成を目標に、10年に亘り40億フラン(約3800億円)の資金提供を目標にしています。
 主目的は千億単位の脳の主たる構成要素ニューロン細胞、及び更にその数千倍に上る細胞間のインターフェイス部の機能を分析することで頭脳のモデル化を図る、というもの。これを実現する最大の眼目は、15から20メガワットのエネルギーで機動するスパコンの開発(人間の頭脳は20乃至30ワットのエネルギーを消費しますが、パソコンでこれを代用するには、そのほぼ百万倍のエネルギーが必要)であり、これによって、アルツハイマー・パーキンソンに代表される幾多の頭脳疾患治療の決定版を発掘することにあります。
 実はEPFLはもう一件、類似案件でEUレベルのプロジェクトに参加しています。それは“Guardian Angels for Smarter Life”というタイトルで、ETH(チューリヒ工大)との合作による人間の身体全体のシミュレーションであり、たとえば糖尿患者や過重体質の人の体内の各種構成要素の分泌状況を連続的にリアルタイムでチェックできるシステムとのこと。本件には責任者J. MILLAN教授のもと、IBM, SIEMENSなど28の大企業や研究機関が参加しており、EU から10年に亘って10億ユーロの資金の調達を目論んでいるとか。
 EU本部では、EU全般で取り組むべき最先端技術案件を当初の20から目下6件に絞り込み、最終的には2012年半ばに、23件が選考される予定です。


 
ボットからトラックバックURLを保護しています